「借地」の物件は買わないほうがいい?
家を買えば、土地と建物の両方の「所有権」を得ることになるのが普通ですが、「建物だけ」の所有権を得て、土地については「借りる」形にすることを「借地」あるいは正式には「借地権付建物の売買」と言い、持ち家のひとつの形態として広く使われています。 あなたの土地にほかの人の家が建っていたら? 建物を建てるのに土地が必要なのは当然です。もし、あなたの土地に誰かが勝手に家を建てたら、あなたはそれを「撤去してください」と言うことができます。そうしないと、それがあなたの土地でないのも同然となってしまいます。しかしそれを「土地を貸している」とすることであなたの土地の権利が守られます。これが借地契約で、通常、毎月地代が払われるようになり、これを「土地賃貸借契約」とも呼びます。 借りる側の権利を強いものに 歴史的に見ると、江戸時代以前の小作人の時代から庶民は土地は持たないものでしたが、明治時代に入って、地租改正や民法制定で個人の所有権が自由に認められ、かつ強い権利として定められました。しかしこれでは地主の権利が強く、一方で都市化による地価上昇、租税高騰に苦慮した地主による地代の値上げや立ち退きが横行したため、政府は段階的に借地借家法(しゃくちしゃっかほう)などで借地人(借りる側のこと)の権利を次第に強めて来ました。また、関東では、関東大震災後によって大量の臨時的な借地家屋が建てられたという経緯もあります。 借地権の歴史(底借) https://sokoshaku.jp/learn/history/ 借地という制度には、このような歴史的な背景が色濃く残ってる面があります。平成4年の借地借家法の改正では、地主側の権利も少し強めることで、土地の有効利用をしやすくしようとする流れにもなっています。それでも、法改正以前から存続する借地については、既存の法規制が適用されることとなっていて、現在では、旧法借地と新法借地とが混在する状況となっています。 借地は「面倒」であることが最大のデメリット さて、借地のデメリットはひとことで言えば、面倒であることです。まずは毎月か毎年で地代を払わないといけないし、受け取る方は滞納があれば督促をしないといけません。地価が変動すれば、その固定資産税の負担をする地主側としては、その分を地代を値上げするなどして調整しないといけませんが、その交渉がすんなり進むとも限りません。 そのほかに「地主による承諾事項」がいろいろ契約で決められています。増改築や用途変更、土地の改良、建物の譲渡などの場合です。どういう場合にどのように承諾してよいか、迷う場合は弁護士などに相談が必要となります。承諾料を取るべきケースもあります。あまりに交渉を避けていると著しく不利になることもあります。ましてや、契約書にこれらのことが詳しく明記されていなかったり、そもそも契約書が存在しない「口約束」の借地も少なくありませんが、こうなるとその都度の交渉も骨が折れることとなりがちです。地主がなかなか承諾をしない場合は、裁判所に判断を委ねる方法がありますが、これにも時間と費用がかかります。 要するに「相手次第」 一番の問題は「人」です。借地契約の相手方が、話し合いに応じてくれる話のわかる人であればいいのですが、そうとも限りません。仮に契約書で定めてあっても、それが「納得できない」と言うのであれば、裁判も避けられません。これは相手次第と言うしかありません。しかも、今の当事者が温厚な人であっても、将来的に相続などして相手が変わってしまうこともあります。地主が「底地(借地の土地の権利)」を他人に売却することも法的に自由にできるため、いつ誰に相手が変わってしまうのかも分かりません。 借地の物件は比較的に安く買える これらのデメリットがそのまま借地の「リスク」と言えます。何も問題が起こらないかもしれないし、起こるかもしれないのです。しかし、これらのリスクが借地物件の価格に反映されているもので、かなりお安くなってるケースも多いです。世の中、うまくできているものです。年齢を問わず住まいとして人気な「吉祥寺」ですが、お寺を地主とした借地物件が多い地域としても知られています。吉祥寺に住みたいけど予算がない人があえて借地を選ぶこともあるでしょう。お寺が地主であれば問題も起こりにくいだろうという考え方もあります。このように、一概に借地が良いとか悪いとかでなく、契約書の内容や相場とのバランスを見て、そして自分に借地物件が向いてるのかどうか(多少の面倒なら我慢できるか)なども考えて、総合的に判断したいところです。 (家いちばコンサルタント 藤木哲也)
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