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保健室だより

なかなか厄介な「アスベスト」問題

あまり詳しくは知らないけど聞いたことはある。そういう用語が不動産関連でいろいろありますが、そのひとつとして「アスベスト」があります。まずひとつ言えることが、「アスベストなんか関係ない」と言い切れる人がほとんどいないくらいに他人事でない問題です。なおかつ健康や人命にも直結する重要問題でもあります。 身の回りのあらゆるものにアスベストが含まれる アスベストとは、建築材料をはじめ、自動車の部品なども含めて、その部材の強度などを高める目的で混ぜ合わせる物質で、繊維状の形をした微細な材料です。目に見えないくらい小さいので、簡単に見分けがつきません。安価で熱などにも強いため、爆発的に普及し、身の回りのあらゆるものにアスベストが混じり込んでいる現状です。具体的には、以下の資料を見れば、あちこちにアスベストがある身近なものだということがよく分かるでしょう。 目で見るアスベスト建材(国土交通省) http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/01/010425_3/01.pdf 今では全面的に使用禁止となっている しかし、このアスベストが体に悪いことが分かっています。アスベストを吸い込み、肺に入り込んでしまうと、発ガンリスクなどが高まると言われています。厄介なのは、すぐに痛みが出たりしないことです。これについては、放射性物質と似ていると思います。目に見えず、即効性もないから、うっかり忘れがちになるという点で。 そのため、日本ではすでに全面的に製造禁止となっています。しかし、この国の判断が少し遅かった感があります。日本で段階的な規制が始まったのが2006年で、完全禁止になったのが2012年とつい最近のことです。WHOがアスベストの危険性をレポートしたのが1972年、さらに1989年のWHOからの正式な勧告を受けて欧米各国が速やかに使用禁止に動き出したことからすると、日本政府の対応の遅さが際立ちます。 アスベスト全面禁止(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/dl/hou07-281c.pdf アスベストナビ https://www.asnet-japan.com/asbestos-navi/asbestos-ban-timeline-regulation-evolution-background/ 古い建物の中に残ったまま 使用禁止になったものの、すでに建物の各所にアスベスト入りの建材がたくさん使われたままです。これらをすべて撤去する義務にはなっていません。それはとてつもなく大変なことだからです。築20年以上の建物にはほぼもれなく、大なり小なりのアスベストが入り込んだまま仕方なく放置されているのが、今の日本の現状です。 幸い、アスベスト入りの建材の多くがボード材や保温材など、硬質な部材の内部に混入している状態なので、その部材が破損などしない限りアスベストは「飛散しない」ため安全とされます。一方で、鉄骨の「耐火被覆」が飛散しやすく危険性が上がります。耐火被覆は、よくショッピングセンターの駐車場の天井の梁部分に灰色の綿みたいなものが張り付いてるのを見かけると思いますが、それが耐火被覆材です。オフィスビルが鉄骨造のものが多く、たいていこの耐火被覆が使用されています。ただし、通常は天井に覆われていて露出してないため、いちおう安全とされます。 こういう時は気をつけて したがって、気をつけなければならないのは、リフォームや改修工事を行う際です。天井などを剥がす際にアスベストが飛散してしまわないか、注意が必要です。現在では、工事業者がこのことを心得ているため心配は少ないですが、その代わり、アスベスト材の産業廃棄物処理のコストがかかるため、その分工事費が上がってしまうことは覚悟が必要です。 また、そうでない「DIY」でリフォームなどやる場合は、自分で判断が必要です。先ほど言いました通り、アスベストが目に見えないため、アスベストの有無を調べるのに、専門家の調査が必要です。これにも費用がかかります。 それともうひとつ。大地震などで周囲の建物がたくさん倒壊や破損などしている状況に直面した際は、少なくともマスクをして自分の肺を守ってください。アスベストが大量に飛散している可能性が高いです。 アスベストが理由で取り壊されていく貴重な建物 アスベスト問題により歴史的にも貴重とされる建物が取り壊されてしまう結果となることもあります。東京銀座からほど近い場所にかつて建っていた「カプセルタワー」は、建築家の黒川紀章が設計したもので、1972年に完成、特徴的な外観は「メタボリズム」という斬新な思想のもとデザインされ、国内外から注目を集めたビル(集合住宅)でしたが、2022年にすでに解体されて現存しません。貴重な建物を取り壊さざるを得なかった理由は権利関係など多々あったことでしょうが、アスベストの処分に関する技術的な問題、コスト面の問題が重くのしかかったのは間違いありません。「カプセル部分が老朽化したらカプセルごと交換すれば永久不滅のビルとなる」とそういう発想で建てられた超先進的な建物でしたが、残念ながらアスベストの危険性が世に知られる前だったことが致命傷になりました。早すぎた先進性だったということです。同様に、アスベストが原因で取り壊さざるを得なくなる近代建築が今後も大量に出てくるでしょう。アスベストを容易に「無害化する」技術が現れることを期待するところです。 中銀カプセルタワービル https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E9%8A%80%E3%82%AB%E3%83%97%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%AB アスベストがこの世から完全に姿を消すには、おそらく100年以上はかかるでしょう。こう考えるとなかなかやるせないものがありますが、その現実を受け止めて、それで自分はどう生きていくのか、判断しなければなりません。 (家いちばコンサルタント 藤木哲也)

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    典型的なアスベスト建材「耐火被覆」

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    アスベストを吸ってしまわないように https://twitter.com/absolute/status/1659412657575972865

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