「違法建築」をどうするか?
多岐にわたる建物関連法律 意外と他人事でない「違法建築」の話をします。まず、建物に関連した法規制がたくさんあります。都市計画法や建築基準法、消防法、自然公園法などのほかに各市町村で細かな条例を定めていることも多いため、どういう法令の規制の対象となっているかを調べ上げることからやる必要があります。この時点ですでに素人では容易にチェックできない領域に入ります。 街並みや安全性を建築基準法が大きく左右する それでも、メインは「建築基準法」であり、相当に細かい内容となっています。大きくは都市計画的な規制と、防火や避難といった災害時の安全性に関わるものが主な内容です。特に「容積率」と「高さ制限」に関するところは、街並みをこれにより決めてしまうものであり、土地の有効活用の際にも大きく影響するため、住環境や地域経済へのインパクトも大きいものです。避難規制については、概念的にやや複雑で、なおかつ建物の用途によってもさらに細分化されていて、一層複雑になっています。このように、重要な法律ではあるものの、基準をすべてクリアしているのかどうかは、プロでさえもひと目では判別が難しくなっています。 ほとんどが違法建築? しかも、クリアすべき項目が多岐に渡り、なおかつ法律そのものが常に改正を繰り重ねていることもあって、さらに複雑です。時間によって変化する要素もあります。例えば、「消火器を設置すること」という基準になっている場合に、その消火器が消費期限を過ぎてしまっていたら、それだけで違法になります。程度問題の大小はありますが、こういうことも引っくるめると、日本中のほとんどの建物が「完全に合法」であることの方がむしろ少ないと考えてよいでしょう。 罰則などはどうなっているか? では、違法状態である場合に、実際としてどういう問題が起こるでしょうか。まず、違反箇所を違反ではない状態にするように、行政などから「是正命令」を受けてしまう可能性があります。罰金などの罰則が定められているケースもあります。ただし、そういうことになってしまう事例が極めて少ないことも事実です。これは、違法と断定することが容易でないこともあり、かつ役所に取締りを十分に行えるほどの組織的な体制もその予算もなく、違法建築が「野放し」になっているのが日本の現実です。 ただし、役所が是正命令に動き出す場合もあります。それは地域住民からクレームが入った時です。「あの建物は高さ制限を違反している」との情報があれば、役所も無視できません。このことを裏返してみると、やはりご近所の人とは仲良くするべきだな、ということになります。 所有者としての責任の重さ もうひとつが、「何かあった時のこと」を考えないといけないということです。例えば、火災です。火事で、建物の中にいた人が逃げ遅れて死傷などしてしまった場合には、その建物の所有者が責任を問われます。その時に、基準法や消防法などをきちんと守っていたのか、いなかったのかで、罪の程度が全く変わります。 飲食店が火災になって多くの被害者を出すニュースをしばしば目にすることでしょう。私は職業柄、雑居ビルの居酒屋などに入った時は、避難経路も気にして見ますが、たいてい、避難扉の前などに備品類が大量に置いてあることも珍しくなく、心配になります。自分の身は自分で守らないといけませんね。 物件を買う時の心構え さて、これから不動産を買おうとしている人は、その物件が違法建築なのか気になるところです。しかし、残念ながら、この辺りの法整備は遅れていて、売買を行う宅建業者にその物件の違法状態をすべて正確に説明することが義務化されていません。それは、簡単にはできないことだから仕方がありません。 いちおう、違法状態を専門家が調査してレポートしてくれるサービスが存在します。「エンジニアリングレポート(ER)」と呼ばれるもので、主に商業用不動産(オフィスビルなど)を不動産ファンド間で取引する特殊なケースで利用されます。費用も高額なものです。私もファンド会社にいたためERを詳しく知ってますが、これでさえ100%ではないということと、何らかの違法状態があることが当たり前であること、これが今の限界であることです。 違法建築と向き合う これら現状を理解した上で、まずは慌てず騒がず、いたずらに違法建築を避けることもなく、しっかり向かい合いながら、費用をかけて是正するならその予算をしっかり立て、その中で生命の安全に関わるものなどの優先順位を決め、じっくり取り組んでいくようにしてください。もし、途中で売却することになったなら、そのことを買主側にきちんと告げるようにしてください(言わないと不法行為となります)。こうやって、仮に所有者が変わって行っても、長期的に取り組んでいく覚悟も必要です。それをあきらめる時は、建て替える時です。 (家いちばコンサルタント 藤木哲也)
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