空き家を狙う「地面師」にご注意を
ネットフリックスで「地面師たち」が流行っていますね。「地面師」については今でこそ積水ハウスの大事件があり、それが映像化されたこともあって認知度は上がっていますが、それが無ければ不動産関連のお仕事に就いている人が知っているだけの単語だったかと思います。私も不動産業界に足を踏み入れるまで知りませんでした。地面師をご存知ではない方向けに簡単に説明をすると、「土地の所有者になりすまして購入希望者に売却をもちかけ、代金をだまし取る詐欺を行う者」です。 地面師は最近有名になった詐欺ですが、実は新しく出てきた詐欺ではありません。特に被害が多かった時期は今までに3回ありました。1つ目は戦後混乱期、2つ目は1980年代~90年代(いわゆるバブル期)、3つ目は2010年代中盤です。地面師事件が多発する背景ですが、【リスクと比較してリターンが大きいこと】という条件が発生しているときに地面師が暗躍します。 戦後混乱期は東京都の東部(台東区・墨田区・台東区)で地面師事件が多発しました。それは、不動産の所有を証明する書類を保管している役所と法務局が戦災で焼失してしまったり、家の所有者が全員亡くなるなどで所有者不明の土地が多くあったことで【詐欺が発覚するリスク】が低かったためと言われています。 次に地面師が暗躍したのは不動産価格が上昇した1980年代です。特に1980年代は前代未聞の価格上昇が発生し、なんと千代田区の公示価格の平均額が1980年から1990年の10年間で約15倍になりました。(※1980年 338万円/1坪 → 1990年 5,145万円/1坪 → 2000年 1,067万円/1坪)今でこそバブル景気は過去の話ですが、どれだけ異常な状態だったかわかるかと思います。これは【詐欺で得られるリターン】が大きく、その急激な値上がりを地面師たちが見過ごすわけもなく、詐欺事件が多発しました。 そして一番直近の2010年代の地面師事件で一番有名なのは積水ハウスが63億円を騙し取られたあの事件です。登記簿はコンピュータ化し、不動産の所有を証する書類が2005年に登記済権利証から登記識別情報通知に切り替わって暫く経ったタイミングでの事件でした。システム変更の過渡期で利害関係者のチェックが甘かったこと、何十億という多額のリターンを得られそうな期待があったこと、購入する不動産業者も皮算用をしてしまっていたことが上手くハマって、積水ハウスの詐欺事件が起こったと言えます。 ただ、顕在化したのは積水ハウスでしたが、表に出ない詐欺未遂案件が山のようにあったはずです。東京都内に限らず、日本中で同様の地面師事件が発生しています。普段SUUMOなどを見ていて「不動産価格が1000万円」というのは驚きませんが、「オレオレ詐欺に1000万円を取られた」というと驚きますよね。ある程度の都市で1000万円以上の価値がある不動産を見ずに街を歩くのは難しいはずです。それだけ地面師のターゲットは世の中に転がっています。 そして狙われるほとんどが「空き家」です。地面師が空き家に侵入し、建物の内側から鍵を開けてしまえば、不動産業者と言えど騙されてしまう可能性があります。まして「直接取引しませんか?」と誘ってくるような人は本当に要注意です。自分の知らないうちに自分の不動産を詐欺の道具に使われてしまう。そのようなことが無いように、適切に管理がなされていない空き家は早めに処分することをお勧め致します。 (家いちばコンサルタント 手塚龍行) ※写真は記事の内容とは関係ありません。
- 1080
- 1