「多拠点ライフ」の人が増えてます
2015年に家いちばをスタートする時に、いらなくなった空き家を一体どういう人が買うのだろうと仮説を立てた。当時すでに「マルチハビテーション(多拠点居住)」という言葉があり、先行してそういうライフスタイルを送っている人たちがいた。人口が減っている中で、空き家の受け皿になるのはこういう人たちだと考えた。フタを開けてみると、その読みが見事に当たった。 多拠点ライフとはどんなものか? 多拠点ライフも、いわゆる「別荘(セカンドハウス)」に近いが、別荘の場合、あくまでも本宅の存在があって、余暇や避暑を目的に一時的に泊まるという感覚だ。一方の二拠点あるいは多拠点ライフと呼ぶ場合は、主と従の関係がやや曖昧になる。どちらがメインなのか分からない状態だ。 確かに「住民票」を置いてる場所が本宅には違いないが、実際の日々の活動の拠点が住民票の住所とは限らない。すでに知らないうちに二拠点ライフを送っている人もいるだろう。例えば、単身赴任で家族と離れて暮らしている人も一種の二拠点状態と言える。古くからは、普段は都心で働き生活している人が、夏休みなどは田舎の実家に帰省するというパターンも広くは二拠点と言える。そう考えると、実は昔から日本人のライフスタイルに馴染みがあるものなのだ。 交通網や物流網の発達が背景 さて、最近のマルチハビテーションは、これら従来の行動パターンをさらに進化発展させたものだ。その背景に、交通網の発達がある。飛行機、新幹線をはじめ、高速道路が全国網目のように張り巡らされた。日本全国のたいていの田舎でも高速のインターから1時間以内でたどり着けるほどだ。道路建設で税金の無駄使いとの批判もあろうが、作ってしまったのは仕方がない。 さらには、物流網の発達もある。コンビニエンスストアを代表とするナショナルチェーンによって、ロジスティック(物流構築)が重視された。また、アマゾンなどのネットショッピングの急速な普及により、大型で高度に自動化された物流倉庫が全国に拠点を作り拡大中だ。 都会か田舎か?どちらも楽しむ これによってすでに、都会と田舎の生活のギャップがほとんどなくなっている。むしろ都会暮らしのほうが物不足に陥りやすいくらいだ。その反映か、かつては地方のロードサイドにあるものだったニトリやヤマダ電機などの量販店が新宿や渋谷などの超都心に店舗を構えるようになった。従来なら、都会で流行ったものが遅れて田舎にやってくるものだったが、その流れが逆転してしまったと言える現象だ。 しかし、やはり都会、すなわち東京には東京(この場合、神奈川、埼玉、千葉も含む)の魅力がある。多くの人、いろんな人が集まる場所である。なおかつ、さまざまな交通網も、東京を起点に構築されているから、全国各地へのアクセスが抜群に良い。これが大きいから、東京が捨てられない。 そこで「いいとこ取り」を考えた人が、二拠点ライフを始めたのだ。田舎に「移住」するのではなく、二拠点化することで、緩く移住的なことをスタートできる。仕事を変えたり、家族ごと引っ越したり、そういう大がかりなことをせずとも、田舎の良さを生活の一部に取り入れることができる。 シェアビジネスや民泊が後押し さらに、新しいサービスも増えた。シェアハウスやシェア別荘、それにADDress(アドレス:https://address.love)のようなサブスクサービスも登場した。コワーキングスペースや馴染みのカフェなども拠点のひとつになり得る。 やはり「民泊」の普及も大きい。元々「バケーションレンタル」と呼ぶ、別荘を使わない間を人に貸すというライフスタイルがあった。これをAirbnb(エアビー:https://airbnb.jp)が世界的なプラットフォームとして広げたが、日本ではこれが旅館業法違反となり、代わりに「民泊新法」が生まれた。紆余曲折あったが、うまく日本に根付いた感がある。 そこに来て、最近ではすっかりリモートワークも定着した。客先にもわざわざ出向かず、zoomで済ませることが失礼なことでなくなった。コロナのおかげで一気にそういう時代になった。我々は、一層の時間と場所の自由を得たのだ。ということで、今後も多拠点ライフが加速度的に広がっていきそうな予感である。 (家いちばコンサルタント 藤木哲也)
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