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保健室だより

なぜ、佐野が“ラーメンの街”となったのか

栃木県佐野市|鋳物から厄除大師まである佐野の町 佐野駅前の大通りから少し入ると、狭い路地が入り組んだ一角がある。建物から突き出すスナックの看板が並んでいるが、人の気配はない。すでに廃墟になりかけているものもある。モータリゼーションが進んだ地方都市で、よく見かける光景である。 しかし、その中に、古い家屋をリノベーションしたカフェがぽつぽつと混じっている。私は、その路地にひっそりと佇む木造のゲストハウスにチェックインした。引き戸をがらりと開けると、若い店主が出てきた。普段着のままの格好で、東京から移住してきて近くに住んでいるらしい。宿といっても、いわゆる民泊のようなものだ。海外での経験もあるそうで、この宿には外国からの旅行客も多いという。この日は、アメリカから来たという青年と一緒になった。 たんさんのラーメン店がある街 宿の説明をしてくれる店主に、この辺にいい店はないかと尋ねると、すぐに市内のラーメンマップが出てきた。佐野ラーメンは、これまでに何度か食べたことがある。できれば今回は、ラーメン以外のものを食べたかった。しかし、その地図をあらためて眺めてみると、ラーメン店の多さに驚く。 「いえ、地図に載っていない店がもっとあります。」 そう言われて、さらに驚いた。どうやら市内には150ものラーメン店があるらしい。人口比で見ても、国内でもトップクラスだ。それにしても、多すぎる。これでは、どこに行けばいいのか分からない。おすすめを聞いてみると、店主は少し悩みながら、いくつかの店を挙げてくれた。その日の気分によって、食べたい店が変わるのだという。 佐野ラーメンといえば、あっさりとした醤油味のイメージが強い。だが、最近では塩や味噌も出てきて、それぞれにうまいらしい。ラーメンの街・佐野で、何かが起こっている。そんな気がした。 厄除大師と鋳物も有名 佐野市は、ラーメンの街として知られているが、関東では初詣の定番である佐野厄除大師もある。その周辺には広大な参拝者用の駐車場がいくつもあり、その繁盛ぶりがうかがえる。 さらに、歴史をたどると、佐野は鋳物の街でもあった。天明鋳物は、室町時代から茶釜の産地として知られ、戦国大名たちの権力の象徴としても重宝されていた。市内を歩いていると、各所に鋳造所の跡が残っている。住所にも「金屋町」「金吹町」など、鋳物を思わせる地名が数多く見られる。 鋳物、厄除、ラーメン。一見すると、まったく関係のないもののように見える。しかし、これらはどこかでつながっているのではないか。 きれいな水が山から豊富に湧いてくる 宿の店主からすすめられ、市の北部の山際にある出流原弁天池に行ってみた。ここは日本名水百選にも選ばれている天然の遊水池で、周辺の弁財天や温泉と一体で磯山公園としても整備されている。ここからは安定した水量の湧水が出るのが特徴で、また、佐野ラーメンを作るのに欠かせない原料ともなっている。この水があるからこそ、佐野ラーメンは、佐野以外では同じものは作れないのだろう。 「土」に秘密があった 実は、佐野が全国的にダントツなのが、セメントなどの原料になる高品質の石灰「ドロマイト」があり、この産出量で国内シェアの9割を握っている。太古ではサンゴ礁だった地層がこの地の山間部となって、その石灰層がろ過する湧水によって、佐野に恵みの水をもたらした。そして、その土の恩恵は、鋳物の発展のきっかけともなっている。天明鋳物は、古くから各地の名刹の寺鐘にもなっていて、厄除大師の惣宗寺にもかけられている。 土の恵みには負の側面も 佐野にはもう一つの顔がある。田中正造だ。日本で最初の公害事件となった足尾銅山鉱毒事件の解決に尽力した活動家で、投獄や逮捕などを重ねた苦渋の生涯であったが、その功績で、現在の日本の公害関連の法律整備につながっている。企業が利益追求だけでなく社会的責任があればこそという考えを今に根付かせた人だと言ってもよい。田中正造の軌跡が象徴的であるが、佐野は、川から流れてきた鉱毒による土壌汚染や農業被害で苦しんだ歴史もあるのだ。佐野には、負の側面も含めて、土地がもたらすものと必死に対峙してきたわけだ。 技を伝承していくことを大事にする ところで、佐野が鋳物の街であることは、やや知られていないところがある。産業そのものが衰退してしまっていて、ピーク時の2割ほどになっている。これに危機感を感じて、伝承保存会などが活動をしている。技術が途絶えてしまったら、戻すことができない。そのためだろうか、一方のラーメンに関しては、「佐野ラーメン予備校」が市と地元が連携して運営されている。実際の有名店の料理人が講師となって、創業や事業継承者の支援を行っている。 「さのまる」が佐野の歩みの象徴か こうした佐野の歩みを象徴するものとして、案外ゆるキャラ「さのまる」がひとつの到達点なのかもしれない。さのまるの風貌は独特だ。愛らしい犬のようなキャラクターだが、頭からラーメンどんぶりをそのままかぶったようなデザインで、麺が額から垂れ下がっている。誰もが「熱くなかったのだろうか」と心配をすることをよそに、きわめて爽やかに笑みをたたえるさのまるが、むしろ愛おしくなってしまう。2013年には、グランプリ1位に輝いている。同じくゆるきゃらで先行して人気を博した「ひこにゃん」は、滋賀県彦根市のキャラクターだが、この両市がずっと以前から親善都市として交流されていたことは偶然ではないだろう。佐野という土地は、どうやら、外から来たものを受け入れ、自分のものにしていく力を持っているようだ。 【執筆者プロフィール】 藤木哲也(家いちば代表) 建築・不動産・金融の実務を経て独立。空き家の個人間売買サービス「家いちば」を運営し、古い建物を活かす新しい流通の形を提案している。MBA(経営学修士)、一級建築士、宅地建物取引士。著書に『空き家幸福論』(日経BP)

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    駅前の路地裏のスナック街

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    市内のラーメンマップ(実際の店舗数はこの倍以上)

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    出流原弁天池から清水が湧出する

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    戦国武将に重宝された天明鋳物(田村耕一美術館)

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    市内の各所に古い建物が数多く残る

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    「BELL COFFEE ROSTERS」などおしゃれなカフェも

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    古民家をサウナに改修された「ニノサ」

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    “塩ラーメン”の佐野ラーメンもおいしい

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    「さのまる」の展示コーナーが市役所1階に

それ、売ってはいけない
...かもしれません。

その家には、
まだ役目が残っているかもしれない。

そんなふうに迷ったときのための
場所があります。

売ること以外の選択肢、ここから始まります。

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